事務所のご紹介

国税不服審判所事案のご紹介(実際にあった実務事例)

 

税務署と見解の相違があったとき

Q.
税務調査で調査官の見解に納得ができない場合でも、修正申告をしなければならないでしょうか。
A.
調査官の見解に納得出来ないときは修正申告を拒否できます。

そうすると税務署側は、更正決定処分(一方的な課税処分)をしてきます。いったんは、更正決定処分による納税をしなければなりませんが、国税不服審判所に審査請求ができます。

そこで、改めて見解を申し立てて、正しい判断(裁決)をあおぐことになります。その裁決に不服があれば、更に地裁、高裁、最高裁と裁判の手続きに進んでゆくこともできます。最近では、有名なNTTドコモ裁判300億円取戻しとか、競走馬のハズレ券購入費の判決などはよく知られています。因みに蘭会計では、昨年12月に国税不服審判所で争った事例で、全面的勝訴の「裁決」を得ました。

【事例ご紹介】

長年にわたり不動産賃貸業を営んでおります。賃貸用建物が老朽化したため、取壊し、取壊し費用を必要経費に算入して確定申告しました。この度税務調査があって、‘賃貸用建物の取壊し費用は、必要経費と認められない’と修正申告をするように勧奨されました。

社会通念に照し合わせても、到底納得ができないので修正申告することを拒否しました。従って、税務署は更正決定処分(税務署側から一方的な課税処分)をしました。納得ができない課税処分には断固戦おうと決意し、国税不服審判所へ訴えることとしました。その結果、税務署がした更生決定処分を全部取消すという裁決がされ、一旦課税処分された税金をすべて取り戻すことができました。

【解説】

国税不服審判所へ審査請求の納税者勝率は、2010年に国税庁から発表された資料によると、審査請求の場合、更正決定処分の全部取消は4.1%(一部取消を含めても12.9%)と非常に低く、手続きも日数も要し煩雑かつ面倒な為、納得がいかなくともそのまま税務当局に従ってしまう、という方が多いと思います。しかし、税務職員も法令解釈や税法の取扱いを間違える場合もあるはずです。納得するまで、議論を尽くすという姿勢は大切であると考えます。

今回の事例において、私どもは、名古屋にある国税不服審判所に幾度となく足を運び、国税不服審判官と議論を尽くしました。争点となった、所得税法第37条第1項の不動産所得の必要経費性についての法令解釈、又は東京高裁の平成5年12月の判決の解釈については、特に時間を割きました。論理を組み立て、一貫して納税者側の主張を続けました。

事例の細部すべてをご紹介したいところですが、書面の関係上、概略のみのご紹介となっております。判決要旨は下記にご紹介した通りです。

【判決要旨】

○原処分庁は、請求人が所有する土地(本件土地)は、平成23年1月に賃貸借契約が終了してから、平成25年5月に本件土地を賃貸借する旨の看板が設置されるまでの間、本件土地が近い将来において確実に貸付けの用に供されるものと考えられるような客観的な状態にあったとは認められないから、本件土地上に所在した賃貸用建物(本件建物)を平成23年3月に取り壊した費用(本件取壊し費用)は、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入できない旨主張する。しかしながら、ある支出が不動産所得の金額の計算上必要経費として控除されるためには、当該支出が不動産所得を生ずべき業務と直接関係し、かつ、当該業務の遂行上必要なものに限られると解するのが相当であり、その判断は、単に当該業務を行う者の主観的判断によるのではなく、当該業務の内容等個別具体的な諸事情に即して社会通念に従って客観的に行われるべきであるところ、請求人は、賃貸借契約終了後速やかに本件建物の取壊しを実行したことが認められ、他方、賃貸借契約終了後に本件建物が家事用に転用された事実や、本件土地を譲渡する計画があったなどの事実は認められない。そして、建物賃貸業においては、建物の取壊しは、いわば当該建物に係る貸付業務の残務処理的な行為であるため、建物の貸付業務と直接関係し、かつ、当該業務の遂行上必要な行為であるといえることから、本件取壊し費用は、請求人の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することができる。